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【映画感想】ベイビー・ドライバー 思ってたのと違うけど素晴らしい一作

エドガー・ライト最新作、『ベイビー・ドライバー』、観てきました。
やっぱり間違いない監督ですね、エドガー・ライト
すこし思ってたのとは違いましたけど、いい映画を観た、という実感のある映画でした。
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楽しみにしていたエドガー・ライト作品、周りのお客さんもそうだったようで、満席で笑いのこぼれるいい雰囲気でした。

ところで、今作は上映館が少なくて都内だとT・JOY系列だけっぽいので、いつもと違う劇場に行ったんですけど。
劇場の系列変えると流れる予告編も変わってきて、珍しく楽しい予告編タイムでしたよ。
ジャッキーチェンの新しいやつは思ってたよりどうでもいい感じでしたけど、
イーストウッドの息子が出る『スクランブル』はけっこう楽しみになりました。
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9月22日日本公開ですが、アメリカでは10月13日に公開だそうで、本邦が最速なんでしょうか。
カッコいい車がガンガン出てきてアガる、というのは正しくカーアクションで素晴らしいですよね。
ワイスピの制作陣みたいなので安心感もあるし、ぜひ見たい一本です。

閑話休題
私がエドガー・ライト作品に初めて触れたのは2008年公開の『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』で、愛のあるパロディとしての秀逸さ、真顔で笑わせてくるコメディセンス、それでいて真っ当に面白い警察アクションとしての魅力で、オールタイムベスト級に好きな一本になったんですけど。
そのあと、『スコットピルグリム vs 世界』『ワールズエンド』を流れで観つつ、『ショーン・オブ・ザ・デッド』を後から観直したりして、すっかりエドガー・ライト監督ファンになったわけですが。

今作、相変わらずコメディとしても秀逸ですし、「エドガー・ライトの好きなモノ詰め合わせ」という意味ではこれまでの作品と変わらない部分もあるのですが、鑑賞後はやっぱり「コレジャナイ感」を感じずにはいられませんでした。
ただ、そのコレジャナイ感を感じつつも、さわやかな後味も同時に感じていて。
これまでとは違う、キャリアを積んで洗練されたエドガー・ライト監督の成長を感じる一本でした(偉そう)。
コレデイイ。


今作、あのシーンが楽しかった、ここが最高!という感想も沢山あるんですけど。
それよりも、なぜ「思ってたのと違う」と感じたのかを自分なりに書いていきたいと思います。

あらすじ

天才的なドラインビングテクニックで犯罪者の逃走を手助けする「逃がし屋」をしているベイビーは、子どもの頃の事故の後遺症で耳鳴りに悩まされているが、音楽によって外界から遮断さえることで耳鳴りが消え、驚くべき運転能力を発揮することができる。そのため、こだわりのプレイリストが揃ったiPodが仕事の必需品だった。ある日、運命の女性デボラと出会ったベイビーは、逃がし屋から足を洗うことを決めるが、ベイビーの才能を惜しむ犯罪組織のボスに脅され、無謀な強盗に手を貸すことになる。

ベイビー・ドライバー : 作品情報 - 映画.comより
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感想

これまでと違う構成

エドガー・ライト作品って、ラーメンズのコントに似てると思ってる。
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ゲラゲラ笑わせてくれるんだけど、その中でスッと胸を突く言葉とか、胸を熱くさせる展開を忍ばせてくる。
なんというか、ズルい感じなのだ。
こっちはパロディばかりのコメディだと思って観ているのに、急にある種のジャンルの本格的な「真面目な」映画になっていく。
スリー・フレーバー・コルネット三部作のサイモン・ペッグの、イケメンにも三枚目にも見えるルックスもそれをうまく後押ししていた。
(それだけに、スコット・ピルグリムはあんまり好きじゃない…)
前半と後半で別種の映画を観ているような気分にさせられるのが、エドガー・ライト作品だと思っていた。

ただ、今作はそれとは違って、最初から最後までいわば「真面目な」映画として作られている。
コメディとしてところどころ笑える個所も用意されているものの、それはじめっとしたパロディの含み笑いではなく、爽やかな、からっとした笑いを呼ぶものだ。

ストーリーの本筋はとても真っ当なクライムアクション、カーアクション、青春映画で、それをメタ的に見せて笑わせる要素はない。
最初から非常にウェルメイドな、ベイビーという青年の物語になっている。

いわば「俺たちのエドガー・ライト」、既知の作品に対するオタク的な楽しみをパロディという形で共有していたエドガー・ライトが、ついにオタクの壁を越えて「ハリウッドのエドガー・ライト」に進化したという感じ。
新海誠が「君の名は。」で、急にスター監督に化けたのとどこか似てる。

過去に↓みたいなPVを撮っていたこともあるし、今作がエドガー・ライトがやりたい映画であったことは間違いなく、ようやくこれを2時間の尺で真面目に撮れるまで、エドガー・ライトが評価と実力を獲得したということなのかな。
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これまでと違う人物造形

この映画、「ご都合主義」という非難もできるかもしれない。
ややネタバレになるけど、
「どうしてドクはベイビーたちに協力して逃がしたの?」
というところで、人によっては冷めてしまうのかもしれない。

でも、中盤にドクが甥っ子の世話をしているシーンや、少年時代のベイビーが彼にやらかした「犯罪」に対して彼がどう振舞ったか、というところを考えると、その疑問は氷解するんじゃないか。
ドクは基本的には冷徹で完璧主義者だけれど、こと人情が絡むと「優しいおじさん」と化してしまうことは、実は劇中で結構語られていたりするのだ。

この例でも分かるように、エドガー・ライト監督は今回、徹底して人物を多面的に描く作劇をしている。
ジェイミー・フォックス演じるバッツが、狂気あふれる犯罪者として描かれつつも、実は後にジョーを殺さずにおくような、正気の判断ができる冷静な人物であることをところどころで示唆していたのもそれだ。

これまでのエドガー・ライト作品において、「元ネタ」のジャンル映画から型通りのキャラクターを切り取って各登場人物に当て込んだのとは対照的な人物描写を、今回の『ベイビー・ドライバー』では行っている。
ホット・ファズ』でサイモンペッグが演じた「どこまでもくそ真面目な警官」のような、ある種の誇張でキャラクターを浮かび上がらせていたのとは違う、より独立した劇映画としての造形が行われている。

ここでも、やはり先述した「俺たちのエドガー・ライト」からの脱却が感じられます。

そしてとにかく楽しい2時間

まあ何にせよ、この映画が徹頭徹尾わいわい楽しいことに異論はないと思います。
流れ続ける音楽、その音楽に合わせてスクリーンで登場人物たちは踊り、自然音が楽器のようにリズムを刻む。
自然と体が揺れて、物語に入り込んでいく感じは、映画館で映画を観る喜びを全身で感じさせてくれます。
冒頭の強盗後の珈琲を買いに行くシーン、あれだけ計算された画面をどうやって作ったのか驚きです。

そして、ここはエドガー・ライト印と言えるでしょう、数多くの映画からのオマージュの楽しみ
↓に記されてる5本の他にも、
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例えば立体駐車場の「車相撲」は『狼の死刑宣告』っぽいし、
車で人を殴るような轢殺アクションは『ジョン・ウィック』っぽい。
そのへんが個人的には印象的でした。
控えめに言って場面の半分はカーアクションですが、そのカーアクション自体を飽きさせない多彩なアクションのレパートリーは流石の一言。

結末の少しほろ苦い感じも、ベイビーがこれまで犯してしまった罪に対して一応の因果応報が与えられたという意味で納得の展開。
ところで、私は最後のシーンはベイビーが観た白昼夢だと思います。報われすぎ!

そんな感じでとってもいい映画を観たな、という充足感を持って映画館を後に出来る映画です。
とにかくグルーブ感のある映画なので、ぜひ劇場で、見ず知らずの人たちとの一体感を楽しむといいのではないでしょうか。