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【映画感想・ネタバレ】ウィッチ 時代も宗教も超えて怖いものは怖い

『ウィッチ』、新宿武蔵野館で遅まきながら観てきました。
上映は来週いっぱいまでなので観てない人はお早めに。
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『ウィッチ』、割とおすすめだけど同時に人に薦めて観させたら、こっちが怒られてしまうような作品でもあって。
なぜならこの映画滅茶苦茶怖くて、鑑賞後の夜道での精神状態に間違いなく支障が出るから。

ホラーだっていうのは知ってたけれど、
「所詮昔のイギリスの話だからたいして怖くない(自分と時間的物理的に距離があるから)」
「アニヤ・テイラー=ジョイちゃんかわいい(かわいい)」
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という軽い気持ちで観に行ったんだけど…ぜんぜんビビったし、イヤーな気持ち(いい意味で)になる映画でしたよ。

「旧来的な家庭から解放される女性性の話」とか、
「ミニマライズされた環境での魔女狩り思考実験」とか、
知ったようなことを書こうと思えば書けるんだろうけど、それよりも
森怖い」「夜怖い」「魔女怖い」「その音やめて
っていう直感的な感想が先に立つ映画でした。
当時の宗教や社会のことなんか一つも知らなくても普通に怖い、夏にぴったりのホラーです。

基本情報

監督:ロバート・エガース
脚本:ロバート・エガース
出演:アニヤ・テイラー=ジョイ、ラルフ・アイネソン、ケイト・ディッキーら
公式HP:映画『ウィッチ』 オフィシャルサイト

監督・脚本のロバート・エガースはこれが長編初のメガホンで、しかもサンダンス映画祭で監督賞を獲得しちゃった人。
サンダンスの映画祭は「世界最大のインデペンデント映画祭」らしく、タランティーノとか、『SAW』のジェームズ・ワンとか、『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルがここから有名になっていったそう(この人たちはグランプリだけど)。

要するにエガースさんは映画監督の登竜門でタイトルを獲得した監督で、この後、古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』のリメイク監督という大役を任されることになります。
そっちでもアニヤ・テイラー=ジョイが出演するっぽいけど、今作の怖さの質の良さを考えると、またこのコンビで、というのは非常に合点がいく。

役者陣。
子役が子役っぽくなくて原寸大の「子ども」が画面に映っている感じが良かった。
是枝裕和監督に通じる子役演出のうまさがエガース監督にもあるのかな。
父親役のラルフ・アイネソンはハリポタに出てたらしいけどちょっと記憶にない…。GotGにもちょい役で出てたんだって。
けっこう味のある役者さんだなというか、ヘタレだけど父親らしくあろうとする男、という役にぴったりの人だった。
ケイト・ディッキーが演じる他人任せで受動的な母親と併せて、あまりいい家庭じゃなさそうな夫婦にげんなりした(いい意味で)。

主役のアニヤ・テイラー=ジョイ、美しかった…。
あの年頃の女子にありがちな、子供っぽい無邪気な部分と少し大人な狡くて悪い部分が同居している感じを100倍カリカチュアライズした、イヤで魅力的な演技をしていたと思う。
ラストの邪悪かつ心からの笑顔も見事。役者を活かす監督の演出力もすごいし、この子の演技力も恐ろしい。

あらすじ

「魔女」をテーマに、赤子をさらわれた家族が次第に狂気の淵へと転落していく姿を描き、第31回サンダンス映画祭で監督賞に輝いたファンタジーホラー。
1630年、ニューイングランド。ウィリアムとキャサリンの夫婦は、敬けんなキリスト教生活を送るために5人の子どもたちと森の近くにある荒地へとやって来た。しかし、赤ん坊のサムが何者かに連れ去られ、行方不明となってしまう。家族が悲しみに沈む中、父ウィリアムは、娘のトマシンが魔女ではないかとの疑いを抱き、疑心暗鬼となった家族は、狂気の淵へと転がり落ちていく。

ウィッチ : 作品情報 - 映画.comより
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この映画もあらすじが≒ネタバレのタイプで、プロットの意外性というより、それをどうスクリーンに投影するか?の凄みで勝負するタイプの映画。
あらすじと予告の5億倍怖いので、事前にタカをくくって観に行くと心的外傷がマッハになる映画です。

感想

ここから大幅にネタバレ含みます。

そんなことより怖すぎるぞこの映画

ラストシーンはルイス・リカルド・ファレロの「サバトに赴く魔女たち」の絵にそっくりな構図だ…とか、詳しい人はいくらでも考察できる映画だと思います。
映画の終わりで、かなり実際の出来事からインスピレーションを得たというテロップが出ていたので、オマージュてんこ盛りなんでしょう。

ただ、そういうのをあれこれ考える知識がなくとも、目の前で恐ろしいことが起きている!という純粋な恐怖が、誰しもファーストインプレッションとして残る映画だと思いますコレ。

えぐいゴア描写とか、ビックリさせる展開はないんですが、とにかくすべてが目を背けたくなる不吉さ
サムが死の直前に幻視した「神の子」は絶対に悪魔の擬態ですよね…。
子どもが満面の笑みを浮かべているだけなのに怖い、不吉!って思うことあるんですね。

あと、ちょっと『ファイナル・デスティネーション』っぽい死に方する(そこはちょっと笑っちゃったけど)両親の狂った感じをはじめ、全部が悪い方向に転がっていってしまったが故に家族に訪れる不幸、という感じは『葛城事件』と似た後味の悪さでそこも最悪(褒めてる)でしたね。

そして、とにかく使われている「」が恐ろしい。
赤ん坊のサムが連れ去られた後の「何か」を杵で潰すくちゅ、くちゅという音。
森のどこからともなく聞こえてくる魔女のささやきと叫び。
要所要所で効果的に挟まれるバイオリンの一番イヤな使い方の音。

森と暗闇というただでさえびくびくさせられる舞台装置の中で、ご丁寧に音の演出で恐怖を説明し増幅させる手腕は見事としか言えないです。
目をふさいでも、情報を遮断できないのはちょっと容赦なさすぎだと思います。
ときどき怖すぎて劇場の床の常夜灯へと目をそらしていたのですが、それでもなお怖かった…。

鑑賞後にあまり多くを語る気力がなくなる映画というか、私にとっては魂が抜けて、ただただ怖いという感想しか残らない感じでした。
もちろん、ホラーですからその感情を楽しむために行ったし、いい映画です。
ただ、夜に観るべきではなかった…。
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終わりに

いろんな切り口のある、非常に多層的な映画です。
私のように、キリスト教の魔女についてなんら知識を持たない人でも純粋で上質なホラーとしてこわ楽しめますし、
そういう知識が豊富な方ならたぶん別の楽しみ方もあるでしょう。
知識人と一緒に行って、散々怖がったあとに喫茶店でテーマについて解説してもらうのが一番この映画を楽しめそう。

夏の夜にぴったりなホラーでした。音響の妙を含めて、ぜひ今、劇場で鑑賞するのが〇でしょう。