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【映画感想】ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ  プロジェクトXの影の側に立った作品

渋谷シネパレスで鑑賞してきました。
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。

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公開からすでに2週間たっているにもかかわらず、劇場はほぼ満席。
木曜がメンズデーというのも一つの理由でしょうが、それ以上にこの盛況は映画の評判のよさにあるでしょう。
そして口コミにたがわず、非常に面白かったです。


単純に、「マクドナルド創業者はマクドナルドさんではない」というトリビアを知って「へぇそうなんだ」と思うだけにとどまらない映画でした。
ジョン・リー・ハンコックらしい、と言うべきでしょうか、「旧き良きアメリカ」への郷愁と、大量生産大量消費社会への忌避感が押しつけがましくなく描かれていて、今の時代を生きる私たちが非常に共感できるつくりになっています。
この映画は、マイケル・キートンが演じるマクドナルドの創業者レイ・クロックのやり方、価値観が良しとされてきた時代への決別を告げる一本と言えるのではないでしょうか。


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基本情報

監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ロバート・D・シーゲル
出演:マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、リンダ・カーデリーニ

プロデューサー陣に『アベンジャーズホークアイ役ののジェレミー・レナ―がいてびっくりしました。


それはさておき、監督は『ウォルト・ディズニーの約束』のジョン・リー・ハンコック
脚本は『レスラー』のロバート・D・シーゲル。
IMDbで調べる限り、この作品で初めて組むコンビかな?

監督は他にも『オールド・ルーキー』とか『しあわせの隠し場所』とか、実話を基にしたヒューマンドラマを多く手掛けている人。
今回はちょっと毛色が違って全編にアイロニカルな空気が漂うけれど、変わらずいいドキュメンタリー風ドラマを作る人ですね。


キャストの方だと、マイケル・キートンマイケル・キートン力全開。
前半のとにかくポジティブなアメリカ人と、後半の冷酷なヴィラン感がどちらも最高にハマっていて流石でした。
今回のスパイダーマンでも、家族を思いやる父親とスタークへの復讐を誓うヴィランの二面性を発揮するキャラですが、マイケルキートンなら安心して待ち望むことが出来ますね!

あとはグラントリノでイタリア系の床屋を演じていたジョン・キャロル・リンチが今作でも「旧き良きアメリカ」側の人間として好演していて良かったとか、
リンダ・カーデリーニはそういえば『アベンジャーズ』でホークアイの奥さんだった人だとか、
その辺が個人的にいい意味で気になったところですかね。


あらすじ

1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロックに8台もの注文が飛び込む。注文先はマックとディックのマクドナルド兄弟が経営するカリフォルニア州南部にあるバーガーショップ「マクドナルド」だった。合理的なサービス、コスト削減、高品質という、店のコンセプトに勝機を見出したクロックは兄弟を説得し、「マクドナルド」のフランチャイズ化を展開する。しかし、利益を追求するクロックと兄弟の関係は次第に悪化し、クロックと兄弟は全面対決へと発展してしまう。

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史実を基にした話なので、「意外な真実!」とか「衝撃の展開!」みたいな話ではなく。
あらすじを読めばそれがそのままネタバレです。
ただし、その既知の話を面白く見せる演技や演出が素晴らしいので、話の筋を知るのみにとどまらず劇場で観てほしい、という感じの作品。


感想

冒頭の上手い説明描写

始まってから10分弱は、マイケル・キートン演じるレイ・クロックがシェイクミキサーのセールスマンをしていたころ、仕事の取引でマクドナルド兄弟に運命的な出会いをするまでのシークエンス。
ここがとても上手いなと思ったのですが、この10分で「クロックの人物と窮状」、「マクドナルド兄弟の革新性を示す伏線」を過不足なく描写されています。

開幕のシーン、クロックが話しかけている相手の視点で、クロックがスラスラとセールスの口上を述べるところ。
これで観客はすぐにクロックが口の上手さを生業にしている男だと分かりますし、同時にあまり成功していないことも汲むことが出来ます。

そしてクロックの出先の外食店が、いかにガラが悪く、サービスが行き届いておらず非効率か、ということも並行して描写しており、これによって後に出てくるマクドナルドという「目新しい」店の画期的なすごさが分かりやすく伝わるようになっています。
私たちはマクドナルドがもうある世界に生きていますから、そのシステムの革新性というのはなかなか実感できません。
そこで冒頭のシーン、他店の体たらくを何気なく入れ込んだシーンで、この後出てくるマクドナルド兄弟がやってのけたシステム革命のすごさが私たちにも感じ取れるようになっているんですね。

よく、「いい映画は10分見ればわかる」と言う人がいて、私はあまりそれ自体には与しないのですが、この映画に関しては冒頭10分の手際の良さから映画の面白さを確信出来ました

前半は牧歌的なサクセスストーリー

映画の前半は二つのパートに分かれていて、一つはマクドナルド兄弟のたゆまぬK.U.F.U.(🄫RHYMESTER)の話で、もう一つがそれをクロックがフランチャイズ展開で受け継ぐ話。

これらのパートはとても牧歌的というか、古くから良しとされている「知恵と努力」によってマクドナルド兄弟、クロックが成功をつかむというもの。
クロックがフランチャイズを展開するパートでは、恐慌や戦争によって不安定な職に就いている若者を救済するような形で店を持たせていたり、経営に真剣でない投資家を追放するなど、クロックの奮闘が美談的なムードで語られていきます。
私たち観客が盲目的に信じられる「旧き良き」サクセスストーリーが展開されるわけです。

その背景で流れる音楽は不穏な旋律をはらんでいたり、クロックの家では影が落ちた絵作りになっていたり、今後の波乱や決裂を予感させるものになっているのですが。

後半は冷酷なサクセスストーリー

そして後半。ディテールは伏せますが、マクドナルド兄弟とクロックの溝が修復不可能になる展開。
クロックはひたすら冷徹に、そしてマクドナルド兄弟はひたすら追い込まれる惨めな立場として描かれます。
ここでもまだクロックのサクセスストーリーは続いています。

しかし、そこでのクロックはひたすらマイケルキートン節の悪ーい表情で、冷酷に物事を進めていくのです。
この場面、描き方によってはまだプロジェクトX的というか、いい話に持っていくこともできると思うのですが、後半のクロックはひたすら悪の帝王的な描かれ方になっていきます。

マクドナルド兄弟の理念であった「マクドナルドは家族である」という「美徳」が、「より稼ぐためのマクドナルド」という「悪徳」に乗っ取られていく様を本作では殊更に取り上げていくのです。

この話、一昔前の大量生産大量消費が是とされていた時代であれば、ただただ良いサクセスストーリーとして全編を作ることもできたと思います。
それを、本作では「旧き良きアメリカの喪失」という文脈で解釈し、『グラン・トリノ』の「モン族いない版」として構成しているのです。
今の時代になんとなく共有されている、「あの頃」への懐古、そして猛烈に働くだけが良いことではないという回帰を、強く意識した作品であると思いました。

終わりに

マクドナルド兄弟がクロックに、庇を貸して母屋を取られた物語として、マクドナルド創業の逸話を再解釈した本作。
旧いアメリカ的なものが、名前は変わらずともいつしか全く違う不快なものに変容していた、という、おそらく現代のアメリカ人が内心感じているであろう違和感を強く意識させられた一作でした。
あまり上手く魅力を伝えきれませんでしたが、おススメの映画です。


↓クロックさんの自伝。ベストセラーらしいです。

↓作中でクロックが聴いていたレコードの元本。
凡百の自己啓発本より役立ちそう。

これ↓を観ると映画の背景がより多角的に分かって面白さが増します。
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