時々往々にして

すきなことをすきなように書きます

【野球】セイバーメトリクスとは何か?キャッチアップのために読んだ4冊




 突然ですが、今年2017年の日本プロ野球で一番活躍している選手って誰でしょう?
f:id:tokidokioh:20170716143602p:plain

 三冠王柳田悠岐?巨人のエース菅野智之?首位広島の「神ってる鈴木誠也?贔屓のチームのスターを挙げる人もいるでしょうし、普段野球を観ない人なら大谷翔平って言うかもしれませんね。

 「正解は・・・「人それぞれ」です。「活躍してる」っていうフワッとした概念、1つの正しい解なんてないんですよね。
 そもそも投手と野手で仕事も違えば出力される成績も異なるし、さらに野手には打撃と守備という、これまた別のレイヤーの能力評価軸があります。
 これらを全部ひっくるめて1つの評価軸で順位付けするなんて不可能ですよね・・・」
と、思われていたのははるか昔のことです。

 「活躍してる」という投走攻守入り混じったフワッとした概念を1つの評価軸で表す指標、メジャーではずっと前に、日本でも数年前には好事家の間に定着しているんです。
 その1つがWAR(Wins Above Replacement)という指標。簡単に言えば、「その選手のおかげでチームの勝利が何勝だけ増えたか」を表現している指標です。
 これを使えば、投走攻守の全てをひっくるめて、選手の価値を定量的に示すことが出来ます。つまり、先の「一番活躍している選手は誰でしょう?」に対してある1つの信頼できる解を出せるようになったのです。
 ちなみに2017年シーズンのNPBで、現在(7/16)最もWARが高い選手は、広島東洋カープ丸佳浩選手です。彼一人でチームに5.2勝分の勝ち、言い換えれば10の貯金をもたらしています*1
f:id:tokidokioh:20170716144225p:plain

 WARをはじめとする、野球を統計学的見地から分析し選手やチームを評価する手法をセイバーメトリクスといいます。いまや野球界の常識といっても過言ではないセイバーメトリクス。前置きが長くなりましたが、本稿では、
セイバーメトリクスについて野球ファンが読むべき書籍を4冊紹介します



(目次)

マネー・ボール

(ハヤカワ・ノンフィクション文庫,マイケル・ルイス,2013*2
マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
 セイバーメトリクスを日の当たるところに連れてきた第一人者というべき一冊、『マネー・ボール』。
 貧乏球団オークランド・アスレチックスに新任ゼネラルマネージャー(チーム編成の責任者)として就任したビリー・ビーンが、統計を用いた全く新しい考え方で編成を改革し、球団を競合に変えていく。超有名な傑作ノンフィクションです。

 本書はセイバーメトリクスという「新しい」発想にまだあまり馴染んでいない人におすすめな入門書です。出塁率という指標の再評価、抑え投手というポジションへの過大評価の指摘など、セイバーメトリクスを用いた実例が諸所に出てくるので、なんか難しいそうで食わず嫌いだった、というレベルから一歩踏み出すための一冊。

 ただ、本書の主眼はセイバーメトリクスという考え方そのものではなく、旧態依然とした組織をどうやって変えていくかというビジネス書的な部分に置かれています。なので「これからセイバーメトリクス、ひいては統計学を学んでいこう!」という人が読んでもあまり意味はないかもしれません。

 まあ名著なので普通におススメですし、ブラピが主演を務める映画版もかなりな良作ですが、この記事の趣旨とは少し異なる感じですね。
マネーボール (字幕版)

野球×統計は最強のバッテリーである - セイバーメトリクスとトラッキングの世界

中公新書ラクレ,データスタジアム株式会社,2015)
野球×統計は最強のバッテリーである - セイバーメトリクスとトラッキングの世界 (中公新書ラクレ)
 知識としてのセイバーメトリクスが必要なら、ぶっちゃけこの1冊で十分です。
 前半ではセイバーメトリクスの簡単な歴史と、WARやOPSやUZR、wOBA、FIPといったセイバーメトリクスの各用語について「WARに見る2014年日本ハム大谷翔平のMVP級の活躍」、「DERが示す阪神の守備力低下」といった実例を交えて解説しています。
そして後半ではデータ分析の最先端、「トラッキングシステム」について、界隈では有名人である金沢アナリストや神事先生らの鼎談形式でわかりやすくひも解いてくれています。

 これ1冊でセイバーメトリクスを語るには文句なしだと思います。

 前半の用語解説は説明も丁寧で、英語が多くて混乱しがちなセイバーメトリクス専門用語の字引として長く使える作りになっています。私はこれを読むまで、各指標についてWikipediaをなぞった程度の理解力でしたが、「打者BABIPは必ずしも.300に収束しないのだ」など各指標の意味や計算式をしっかり理解して考えることが出来るようになりました。

 そして白眉は後半の鼎談です。「ストレートのノビとは何か?」、「リベラのカットボールはなぜ打てないのか?」といった、今までイメージで語られていた野球界の謎が、球の回転数や軌道を分析するツールの登場により一気に解明され、さらにその先を行っているということが語られます。滅茶苦茶面白いです。先日のオールスターに鳴り物入りで導入されたトラックマンの価値が一気にわかります

 やまもといちろう氏がかつて

誰でも見られるSTATS(選手成績)からその選手の活躍を予想するセイバーメトリクスが第一世代だとすると、いまのセイバーメトリクスはサッカーから来た選手のパフォーマンスで能力把握や疲れなどの体調を見て選手采配やスタメン起用に活かす第二世代が出てきた感じです。
やまもといちろう 公式ブログ - 【悲報】野球コラムでもボツ原稿を喰らった件で - Powered by LINE

と仰っていましたが、この本では前半で「第一世代」、後半で「第二世代」を俯瞰できます。そういう意味でもおすすめな一冊です。

プロ野球統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート5

(水曜社,岡田 友輔ら,2016)
プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート5
 日本野球界のデータ分析の第一人者、株式会社DELTAによる(誤解を恐れず言えば)同人誌的なマニアックさを持つレポート集です。毎年1冊ずつ出るのですが2017年7月16日時点では特に出る様子がありません・・・。なので前年のもの、シリーズ5冊目を紹介します。

 セイバーメトリクスの理論や意義は分かった。では、アナリストたちは実際にどういった分析を行っているのか?という当然抱くであろう疑問に対して明確なアンサーを返してくれるのが本書です。
 先の『野球×統計は最強のバッテリーである』と同じく本書にも入門書的用語解説はついていますし、加えて「捕手の違いは投手成績に影響するのか」、「「川上巨人」の研究」など興味深いトピックスが並んでいます。

 個人的に最もヒットだったトピックは、「強い打球を放つための力学的要因」です。打球を遠くに飛ばすにはどの角度でボールのどのあたりをたたくことが望ましいか、解析によって明らかにした興味深い内容です。MLBで話題になっている「フライボール・レボリューション」を理論の面から理解するという意味で、昨年これを読んでいて本当に良かったと思いました。
日本で「フライボール・レボリューション」が大きく取りざたされるようになったのは今年に入ってからですし、昨年の時点でこれを扱っていた本書のシリーズは、時代を先取りしたセイバーメトリクス書籍と言えるのではないでしょうか。

[プロ野球でわかる! ]はじめての統計学

技術評論社,株式会社DELTA,2017)
[プロ野球でわかる! ]はじめての統計学
 ここまでくると、セイバーメトリクス素人の中ではかなりの上級者向けになります。実際にデータを集めて計算したい人が、野球を使って基礎から統計学を学ぶ本です。

 平均値から統計検定から回帰分析まで、一通り統計の基礎を学ぶことが出来ます。大学時代、「基礎統計学」なる授業を受けましたが、あの時学んだ内容がまるっとこの一冊に入っています。野球ファン向けの軽い統計学入門かと思いきや、意外とちゃんとした内容でびっくりしました。索引もしっかりしてます。細かいところですがありがたいですね。

 Excel上で実際に手を動かしながら勉強できるような内容になっているので、数式が苦手な人でも実践を積んで統計学を学ぶことが出来ています。野球が好きな人ならその辺の統計入門書よりよっぽどこっちを使ったほうが見につくと思います。
 具体的なセイバーメトリクスの成果は載っていないのでそこに期待するとがっかりするかもしれませんが、しかし巻末の「野球における未解決問題」はなかなか読みごたえがあります。




 書籍の紹介は以上になります。
 オールスターでトラックマンが登場し、球場に行けばバックスクリーンにセイバーメトリクスの指標が出る時代です。この前、元ベイスターズ多村仁志さんもセイバーメトリクスの勉強をしていることが話題に*3なりましたが、解説者の方々も若い人の間ではセイバーメトリクスが常識になりつつあるのではないでしょうか。
 
 野球界の革命的統計旋風に乗り遅れないようにすることは、我々ファンにとっても今後より野球を楽しむためには必須かもしれません。ぜひ当記事を参考にしていただいて、一緒にキャッチアップしていきましょう。