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阪神タイガースの「超変革」は成功したか?金本政権の中間審査



序論

 2015年10月に、鉄人・金本知憲阪神タイガースの監督に就任してから、もうすぐ2年になろうとしています。


―今の率直な気持ちを聞かせてください。
不安と希望が入り混じっています。しかし、今は「やってやろう!」という強い気持ちがあります。
金本知憲新監督が就任会見|球団ニュース|ニュース|阪神タイガース公式サイト

 ファンが待ち望んだ、チームに改革をもたらしうる監督の誕生。金本監督就任以前の阪神タイガースは、弱いわけではないが優勝するほど強くなく、ベテランと外様ばかりで他球団のようなフレッシュな若手がおらず、野球が地味で面白くない…といった感じでした。最後に優勝した2005年来、目先の勝利を求めて継ぎはぎだらけの補強を繰り返した結果、観客動員は伸び悩み、チームとして重たい雰囲気、閉塞感の中にいました。

 そんな中に、「超変革」、「超える」といったスローガンを掲げて金本知憲政権は誕生します。若手の積極的な起用、ウェイト重視のトレーニング改革、「明るく厳しい」チーム作り…。これまでと違うタイガースになりつつある。そう感じたファンはこの変革を諸手を上げて歓迎しました。


 しかしその一方で、1年目の金本阪神は4位、4年ぶりのBクラスに沈みます。ベテランの不調、若手それほどでもない問題、そして何より打てない、フラストレーションの溜まる試合。
 「これまでの負債を返済するためには順位が落ちるのも仕方ない」と変革を信じるファンがいる一方で、「これまでと変わらない、むしろ悪くなったんじゃないか」と懐疑、絶望するファンもぽつぽつ現れました。今年は前半戦終了時で2位につけていますが、1位のカープからは遠く引き離されています。


 本当に、阪神タイガースというチームは変わったのでしょうか?
金本監督の契約期間は3年間だそうです。

球団から「2年連続最下位でも3年目に優勝してくれればいい」と言われたそうだ。
【12球団分析・阪神編】アオる金本新監督。応える若手は現れるか?|プロ野球|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva

 政権発足から1年半が経ち、政権の折り返し地点にいる今、阪神タイガースの「超変革」は為されつつあるのか、金本監督が常々言及する「打線」に着目して考察しました。

打撃成績の比較(2014年~2017年前半戦)

 前政権である2014年、2015年シーズンと、金本政権の2016年シーズン、2017年前半戦の主要打撃成績を以下に示します(表1)。
(文中のデータは注釈がなければすべてヌルデータ様のものを使わせていただいています)
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表1.阪神タイガースの打撃成績(2014~2017F)

 項目は打率、出塁率OPS(出塁率長打率)、それぞれ1試合当たりの本塁打数、四球数(敬遠除く)、盗塁成功数、得点数です。
 また、以降、表の青枠で囲った項目(打率、出塁率OPS)を「率系」、オレンジ枠で囲ったその他(本塁打数、四球数、盗塁数、得点数)を「積み上げ系」とします。

率系から見る打線の変遷

 まず、率系の4年間の推移(表1)を見てみましょう。
 どの項目も2014年をピークに、15年、16年と下降線を描き、17年にややV字回復しています。
 この率系の変遷からは、金本政権における打線の「超変革」について次の2つの意見が言えると思います。

①2014の打撃水準に及ばず、打線の改革は成されていない
②2015から2017まで右肩上がりに打撃成績が回復しており一定の成果がある

 相反する二つの考え方が率系の比較からは想起されます。では、どちらの意見がより正鵠を得ているか、積み上げ系のデータと新たな指標を用いて議論してみることにしましょう。

積み上げ系の比較

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(表1の積み上げ系のみ再掲)

 積み上げ系の指標からは、「どういう手段で何点取るチームか」=チームカラーを見て取ることが出来ます。

 2014年シーズンと2017年前半戦の各指標を比較すると、HR数は変わらず、四球と盗塁が増加するも、得点数が減少していることが分かりました。打率の比較も併せて考えると、2014年に比べて現在の阪神タイガースは「出塁意識、次の塁を狙う意識が高くなった一方、決め手に欠けてチャンスをつかむことが出来ていない」ということが言えそうです。
 事実、2014年の阪神タイガース得点圏打率.270*1とその年のチーム打率を上回っているのに対し、2017年はここまで.240であり、一見すると選手個々の「勝負弱さ」が得点数の減少につながっていると見えます。
 しかし一方で、得点圏打率は個人単位でも年毎のぶれが大きく、そのチームの「勝負強さ」を示す指標としては不十分という見方もあります。

実はセイバーメトリクスでは、得点圏打率で個人の「勝負強さ」を判断ことは科学的でないとする見方が多いのです。というのも、年ごとの打率や得点圏打率相関係数を見てみると、
打率 0.38  得点圏打率 0.23(2014年と2015年のデータによる相関係数
得点圏打率は無相関に近い値となっています。まず得点圏にランナーがいる状態で打席に立てる機会が20~30%と少ないため、シーズンでの成績にはかなりブレが出ると考えられます。なので昨年の得点圏打率が良くても今年もそれがキープできる確率は低いのです。
勝負強さを測るセイバーメトリクス 〜得点圏打率は勝負強さの指標ではない!?〜/鳥越規央の野球視角

つまり、ただでさえぶれの大きい得点圏打率で、しかも2017年の数字はシーズン半分のものですから、暴論かもしれませんがこの数字は運が悪いだけであり、シーズン後半はこの運の悪さを払しょくし得点が伸びてくるのではないでしょうか(願望)。

 よって、前項の①、②の仮説は②よりに傾いている感じがします(願望)。さらに②の仮説、「超変革最高や!」を裏付ける指標を紹介します。

得点能力を示す指標RCAAによる比較

 RCAAという指標があります。説明はwikipediaに頼りますが、

RC(Runs Created)とは、野球において打者を評価する指標の一つ。メジャーリーグベースボールにおけるセイバーメトリクスの第一人者ビル・ジェームズにより考案された個人の得点能力を表す総合指標の一つ。
(中略)
平均的な打者と比較して増やしたRCRCAA (Runs Created Above Average)、あるいはRC+と呼ぶ。
RC (野球) - Wikipedia

 要するに、得点圏打率などの運の要素を極力排して、チームの真の得点能力を、その年の他チームと相対的に比較して表した数値RCAAです。
 得点相関が得点圏打率や打点よりも高く、そのチームの得点力=打線の強さをかなり正確に表す指標がRCAA
 たとえば昨年の広島東洋カープのチームRCAAは117.98でした。これはリーグの平均的な得点能力に対し、カープは117.98点多く得点をたたき出す能力があった(すごい)ということです。

 では、阪神タイガースの2014年シーズンから2017年前半までのチームRCAAを比較してみましょう。表2に各年のRCAAを示します。
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表2.阪神タイガースの得点RCAA(2014~2017F)

 一目瞭然ですね。率系や積み上げ系で優位だった2014年の打撃成績ですが、この年はリーグが全体的に打高(打者有利)気味だったので、実はこの年の阪神タイガースの得点能力は相対的に見てそれほど高くありませんでした。今年は前半戦までの数字なのでシーズン通すとマイナス10くらいのRCAAですが、それでもここ4年で一番得点能力が高い打線であると言えます
 しかもその打線は例年に比べて若手生え抜きが多くを占めており、金本政権以降に頭角を現した選手で構成されています。

 これにより、前前項で提示した2つの仮定、
①2014の打撃水準に及ばず、打線の改革は成されていない
②2015から2017まで右肩上がりに打撃成績が回復しており一定の成果がある
のどちらを取るべきかは明白になったと言えるでしょう。

 「出塁意識、次の塁を狙う意識が高くなった一方、決め手に欠けてチャンスをつかむことが出来ていないり、リーグ下位の得点力を上位のそれに押し上げた」金本阪神の超変革が、少なくとも打撃の面においては、チームを強くしていることは疑いの余地がありません。
 もともと投手力でロースコアのゲームを勝ち取っていた(だからこそ「つまらない」と言われていた)タイガースに、打ち合いで他チームに競り合える打力をもたらした金本政権はもっと大っぴらに評価されるべきだと思います。

終わりに

 PF(パークファクター)を評価していないためRCAAが少し下がり気味で評価されている、各年の打者の構成について考えるとより「超変革」の成果を見ることが出来る、など語り足りない部分はありますが、これだけでも十分、阪神タイガース金本知憲監督のもと、いい方向に転がっているのが分かるのではないでしょうか。
 広島の猛進を食い止めることは難しいでしょうが、「超変革」の旗印を曲げずに、チーム一丸で頑張っていって欲しいですね。