時々往々にして

すきなことをすきなように書きます

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』感想 平尾アウリという天才をチューニングしたら神作が爆誕




みたいなエントリーを書こうかなーと思ってたらこんなイベント↓が来たので書きます。


日頃から常々「この人天才じゃないか」と感じていて、ブログ始めよう(何か発信したい)と思った理由の一つが「この人もっと売れろ!」でもあります。

 平尾アウリさん。2008年に『まんがの作り方』で、月刊COMICリュウが主催する日本の新人漫画賞「龍神賞」を受賞し、同作の連載でデビュー*1します。その後も『OとKのあいだ』、『青春の光となんか』などいくつかの連載を経て、2015年8月から快作『推しが武道館いってくれたら死ぬ』(以下、『推し武道』)を連載開始。現在も連載中で、上記の次にくるマンガ大賞にもノミネートされています。あと「このマンガがすごい!2017」オトコ編第12位にランクインしてた。要するに新進気鋭のスゴイ人です。

 私は『まんがの作り方』でこの人のこと知って、そのあとある理由(後述)から暫くチェックしてなかったんだけど、『推し武道』でまたコミックスを買うように。だから結構ブランク開いててファン名乗る資格ないかもですけど…。私が平尾アウリ先生のまんがを好きな理由はひとえに、水彩画のような繊細で美しい世界の中に無秩序に放り込まれるシュールでオフビートなギャグというギャップ燃え(not誤変換)にあります。そんなギャグの面白さを具体的に言葉で説明する…てのはとっても野暮な事なので、とりあえず『青春の光となんか』冒頭1ページをどうぞ。
f:id:tokidokioh:20170712162450j:plain
こんな感じです(なげやり)。ギャグのための間とか前振り全くなく、真顔で変なことするスタイル。「全編コメディだけどやってる当人は真面目」ってバランスはなんとなくエドガー・ライト作品っぽいっていうか。あと作中では誰も突っ込まないので、「え?笑ってる私がおかしいの?」的な錯覚に陥るのも好きです。この1枚でニヤリとしてしまったら買うしかないです。特に『青春の光となんか』は真顔でギャグやることになんの躊躇いもないのでスーパーおすすめ。

 で、「真面目な体でギャグ」やらせたらこの人ほんとに右に出るもの居ないっていうか天才だと思うんだけど、「真面目に真面目」なことが出来ないという明確なウィークポイントがありました(大過去)。私が『まんがの作り方』以降単行本追うのやめた理由もそれで、普通のストーリーをテリングする、要するに話の起伏とか起承転結とか連載漫画に欠かせない要素を付けること、に全く無頓着な人だなって感じ(大過去)。
 『まんがの作り方』は漫画家の川口さんって主人公がいて、森下さんっていう同じく漫画家の「恋人」がいて、その二人に片思いっぽい感情抱いてるのが数人周りにいて…っていうお仕事ラブコメなんだけど、最初と最後で話の進展が何もない、そのままの状態でずーっと行ってしまう。諸所に入れてくるギャグのキレとか漫画家のリアルなお仕事とか目を見張るポイントはちょくちょくあるんだけど、話の大筋は無風という、それってラブコメとしてどうなんだみたいな部分がすごく気になるシリーズだったんですよね…。
 そんなこんなで暫く平尾先生の作品から距離を置いていたのですが、『推し武道』の評判のよさに釣られて1巻を購入。
推しが武道館いってくれたら死ぬ(1) (RYU COMICS)

ぶっ飛ばされました
面白い!ちゃんとストーリーがある!可愛いし笑えるしハラハラするって最高じゃないか!
岡山県で活動するマイナー地下アイドルChamJamの人気最下位メンバー舞菜(まいな)に、人生すべてを捧げて応援するえりぴよが主人公。収入は舞菜に全部突っ込むので普段着は(晴れ着も)高校時代の赤ジャージ、あまりに熱狂的なオタク活動ゆえに、周りのオタがえりぴよを恐れて舞菜推しが増えないというマッドな設定。そんなえりぴよa.k.a備州の赤い悪魔に対して何故か塩すぎる対応の舞菜。実は舞菜は…。
みたいな話で、要するにファンとアイドルの恋愛物語(百合)です。
 「百合もの」自体は平尾先生が以前から書かれてたテーマではあるんですが、今回何が違うって、
①武道館、地下アイドルというテーマの設定
②ファンとアイドルという現代的悲恋の設定 が存在することです。
 要するに、今回はしっかり物語を語ろうとしている!ということだと思うんです。これらの設定上の妙が、はっきりとこの作品を佳作から神作へ押し上げています。
推しが武道館いってくれたら死ぬ(2)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 まず①武道館というゴールの設定をタイトルにどん、と持ってきてるところにこれまでの平尾アウリ作品との差異を強く感じます。ただの一発ギャグ集で終わらせないぞという意気込みを感じます(私が勝手に忖度してるだけですが)。
 別に本当に「推しが武道館いってくれたら死」ぬ必要があるわけじゃないし、実際にこの物語が武道館ENDにならなくてもいいです。ただ、現状=岡山県の地下ドルから目標=武道館までの道のりがあって、それに向かって動いている物語内の時間経過を感じることが出来る、そういう印象を3巻までで持ちました。
 やってるギャグなりテンションは前作までとなんら変わっていないけれど、これまでの抽象度が高く時間性の薄い作品に比べて、興味の持続は続きやすくなっていてすごくよくなっているという気がします。「武道館」というテーマ、アイドルのサクセスストーリーをラブコメの真ん中にドンと置いた判断の鋭さは良い編集さんが付いたのかなという感じ。↓のインタビューを読む限り邪推ですがそんな感じがします。

konomanga.jp
――この作品は、どういったところから着想を得たのでしょう?

平尾 もともと、4ページの小ネタを何本も提出したなかに、たまたまこの作品の元ネタになったものがありまして、私がアイドルを好きだったことと、担当編集の方がアイドルをお好きだったことで、これを半年後から連載しませんかというお話をいただきました。

 そして②、アイドルとファン、姫と平民的な現代の「身分違いの恋」要素を主人公に負わせたこと。「可愛い女の子に囲まれていたい」から気弱で引っ込み思案だけどアイドルをやっている百合気質の舞菜と、鼻血出ても骨折っても川落ちても内臓売ってでも(売ってないけど)舞菜のためにCDを「積む」えりぴよ。物語の最初から二人は両想いだけど、前者はアイドルだからファンと繋がったら破滅するから塩対応するし、えりぴよは自分がうざいオタク下手すりゃ厄介勢だって自覚してるから塩対応喰らうの含めてまさか舞菜に好かれているとは思わない。このかみ合わなさがたまらない。
 こう言うと語弊がすごいですが百合もので2人が気持ちのすれ違いという普通のテーマで悩むのは新鮮な気がします。百合をアブノーマルなものとして描かず、いち普通の恋愛として描いてるのは何気に凄いなとも。
 ともかく、コミカルな中に少し寂しさを感じさせるこの2人の構図が、シュールなギャグと綺麗な絵という作風と化学反応を起こしてもう最高…(陶酔)。①と併せて、次が気になるドラマをうまく作れてますね。
f:id:tokidokioh:20170712212840j:plain
 他にもアイドル7人グループの間の関係性に萌えられる群像劇とか、どんどん顔つきが汚くなっていく男性キャラとか、平尾先生自らがドルオタであることから生じるアイドル活動ファン活動のリアル感とか、良いところだらけで読んでて多幸感がすごい。
 平尾先生がもともと持っていた天才的なギャグセンスと、アイドルまんがにディレクションした編集の方の彗眼。川村元気×新海誠的な、知る人ぞ知る才能がついに多くの人の目に触れるところに解き放たれた、そんな感じのする『推し武道』。
 心からおススメです。


推しが武道館いってくれたら死ぬ 1-3巻セット
(まだ3巻しか出てないから全然追いつけるぞ!買え!)

*1:wikipediaによればこれ以前にも活動していて、これは「再々デビュー」らしいです