時々往々にして

すきなことをすきなように書きます

【映画感想・ネタバレ】ウィッチ 時代も宗教も超えて怖いものは怖い

『ウィッチ』、新宿武蔵野館で遅まきながら観てきました。
上映は来週いっぱいまでなので観てない人はお早めに。
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『ウィッチ』、割とおすすめだけど同時に人に薦めて観させたら、こっちが怒られてしまうような作品でもあって。
なぜならこの映画滅茶苦茶怖くて、鑑賞後の夜道での精神状態に間違いなく支障が出るから。

ホラーだっていうのは知ってたけれど、
「所詮昔のイギリスの話だからたいして怖くない(自分と時間的物理的に距離があるから)」
「アニヤ・テイラー=ジョイちゃんかわいい(かわいい)」
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という軽い気持ちで観に行ったんだけど…ぜんぜんビビったし、イヤーな気持ち(いい意味で)になる映画でしたよ。

「旧来的な家庭から解放される女性性の話」とか、
「ミニマライズされた環境での魔女狩り思考実験」とか、
知ったようなことを書こうと思えば書けるんだろうけど、それよりも
森怖い」「夜怖い」「魔女怖い」「その音やめて
っていう直感的な感想が先に立つ映画でした。
当時の宗教や社会のことなんか一つも知らなくても普通に怖い、夏にぴったりのホラーです。

基本情報

監督:ロバート・エガース
脚本:ロバート・エガース
出演:アニヤ・テイラー=ジョイ、ラルフ・アイネソン、ケイト・ディッキーら
公式HP:映画『ウィッチ』 オフィシャルサイト

監督・脚本のロバート・エガースはこれが長編初のメガホンで、しかもサンダンス映画祭で監督賞を獲得しちゃった人。
サンダンスの映画祭は「世界最大のインデペンデント映画祭」らしく、タランティーノとか、『SAW』のジェームズ・ワンとか、『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルがここから有名になっていったそう(この人たちはグランプリだけど)。

要するにエガースさんは映画監督の登竜門でタイトルを獲得した監督で、この後、古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』のリメイク監督という大役を任されることになります。
そっちでもアニヤ・テイラー=ジョイが出演するっぽいけど、今作の怖さの質の良さを考えると、またこのコンビで、というのは非常に合点がいく。

役者陣。
子役が子役っぽくなくて原寸大の「子ども」が画面に映っている感じが良かった。
是枝裕和監督に通じる子役演出のうまさがエガース監督にもあるのかな。
父親役のラルフ・アイネソンはハリポタに出てたらしいけどちょっと記憶にない…。GotGにもちょい役で出てたんだって。
けっこう味のある役者さんだなというか、ヘタレだけど父親らしくあろうとする男、という役にぴったりの人だった。
ケイト・ディッキーが演じる他人任せで受動的な母親と併せて、あまりいい家庭じゃなさそうな夫婦にげんなりした(いい意味で)。

主役のアニヤ・テイラー=ジョイ、美しかった…。
あの年頃の女子にありがちな、子供っぽい無邪気な部分と少し大人な狡くて悪い部分が同居している感じを100倍カリカチュアライズした、イヤで魅力的な演技をしていたと思う。
ラストの邪悪かつ心からの笑顔も見事。役者を活かす監督の演出力もすごいし、この子の演技力も恐ろしい。

あらすじ

「魔女」をテーマに、赤子をさらわれた家族が次第に狂気の淵へと転落していく姿を描き、第31回サンダンス映画祭で監督賞に輝いたファンタジーホラー。
1630年、ニューイングランド。ウィリアムとキャサリンの夫婦は、敬けんなキリスト教生活を送るために5人の子どもたちと森の近くにある荒地へとやって来た。しかし、赤ん坊のサムが何者かに連れ去られ、行方不明となってしまう。家族が悲しみに沈む中、父ウィリアムは、娘のトマシンが魔女ではないかとの疑いを抱き、疑心暗鬼となった家族は、狂気の淵へと転がり落ちていく。

ウィッチ : 作品情報 - 映画.comより
www.youtube.com

この映画もあらすじが≒ネタバレのタイプで、プロットの意外性というより、それをどうスクリーンに投影するか?の凄みで勝負するタイプの映画。
あらすじと予告の5億倍怖いので、事前にタカをくくって観に行くと心的外傷がマッハになる映画です。

感想

ここから大幅にネタバレ含みます。

そんなことより怖すぎるぞこの映画

ラストシーンはルイス・リカルド・ファレロの「サバトに赴く魔女たち」の絵にそっくりな構図だ…とか、詳しい人はいくらでも考察できる映画だと思います。
映画の終わりで、かなり実際の出来事からインスピレーションを得たというテロップが出ていたので、オマージュてんこ盛りなんでしょう。

ただ、そういうのをあれこれ考える知識がなくとも、目の前で恐ろしいことが起きている!という純粋な恐怖が、誰しもファーストインプレッションとして残る映画だと思いますコレ。

えぐいゴア描写とか、ビックリさせる展開はないんですが、とにかくすべてが目を背けたくなる不吉さ
サムが死の直前に幻視した「神の子」は絶対に悪魔の擬態ですよね…。
子どもが満面の笑みを浮かべているだけなのに怖い、不吉!って思うことあるんですね。

あと、ちょっと『ファイナル・デスティネーション』っぽい死に方する(そこはちょっと笑っちゃったけど)両親の狂った感じをはじめ、全部が悪い方向に転がっていってしまったが故に家族に訪れる不幸、という感じは『葛城事件』と似た後味の悪さでそこも最悪(褒めてる)でしたね。

そして、とにかく使われている「」が恐ろしい。
赤ん坊のサムが連れ去られた後の「何か」を杵で潰すくちゅ、くちゅという音。
森のどこからともなく聞こえてくる魔女のささやきと叫び。
要所要所で効果的に挟まれるバイオリンの一番イヤな使い方の音。

森と暗闇というただでさえびくびくさせられる舞台装置の中で、ご丁寧に音の演出で恐怖を説明し増幅させる手腕は見事としか言えないです。
目をふさいでも、情報を遮断できないのはちょっと容赦なさすぎだと思います。
ときどき怖すぎて劇場の床の常夜灯へと目をそらしていたのですが、それでもなお怖かった…。

鑑賞後にあまり多くを語る気力がなくなる映画というか、私にとっては魂が抜けて、ただただ怖いという感想しか残らない感じでした。
もちろん、ホラーですからその感情を楽しむために行ったし、いい映画です。
ただ、夜に観るべきではなかった…。
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終わりに

いろんな切り口のある、非常に多層的な映画です。
私のように、キリスト教の魔女についてなんら知識を持たない人でも純粋で上質なホラーとしてこわ楽しめますし、
そういう知識が豊富な方ならたぶん別の楽しみ方もあるでしょう。
知識人と一緒に行って、散々怖がったあとに喫茶店でテーマについて解説してもらうのが一番この映画を楽しめそう。

夏の夜にぴったりなホラーでした。音響の妙を含めて、ぜひ今、劇場で鑑賞するのが〇でしょう。

【映画感想】スパイダーマン:ホームカミング 粗はあるけどとにかく楽しい!お帰りスパイディ!




IMAX3Dで観てきました、『スパイダーマン ホームカミング』!
楽しい!笑える!面白い!
ひたすら楽しい2時間半でした!絶対にまた観に行きます。

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朝一番の回に行ったのですが、人の数に圧倒されました。
10分前に行ったのに定刻に間に合わずCMの途中から入る羽目になったくらい。
私の最寄りの某シネコンでこんなに人がいるの初めて見ました。

そして、私の行ったところだけでしょうか、いつもより予告編の時間が長い…。
体感で15分くらいは予告編を見せられた気がします。
ブレードランナー2046』の予告を初めて観れたので文句はないですが。
映画館で予告を観ると、興味なかった映画でも観に行きたくなりますね。
今年はそれで『東京喰種』という当たりを引けたのでなかなかバカにしたもんじゃないです、予告編。

本編も素晴らしかったのですが、一番感情が込み上げてきたのは、
いつものIMAXのカウントダウンがスパイダーマン仕様になっていたところ。
『シビル・ウォー』以来、本当に帰ってくるのを楽しみに待っていたので此処で一気に気持ちが昂ぶりましたね。

本編はもう良さ、良さ、良さ、という感じで全編通して幸せになれる作りで、待っててよかったなーって感じ。
「大いなる力には大いなる責任が伴う」「貴方の親愛なる友人」、あるいはヴィラン側への眼差しという、いつものスパイダーマンの要素を忘れずに取り込みつつ、
アイアンマン=トニー・スタークとスパイダーマン=ピーター・パーカーの擬似家族の要素とアベンジャーズの要素を新たに付け加えていて、
フレッシュかつ定番の楽しさを感じられる一本です。

基本情報

監督:ジョン・ワッツ
脚本:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー、クリストファー・フォード、クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
出演:トム・ホランドマイケル・キートンジョン・ファヴローゼンデイヤドナルド・グローヴァー、タイン・デイリー、マリサ・トメイロバート・ダウニー・Jr

監督は今作が長編映画3作目という新鋭、ジョン・ワッツ
脚本に参加しているクリストファー・フォードとは3作すべてでタッグを組んでいる。
このコンビが前回手掛けた『コップ・カー』については弊ブログのこちらの記事を参照していただけるといいかも。
tokidokioh.hatenablog.com
今回のスパイダーマンにも通じる、この監督の作品に滲むこだわりについて書いてます。


加えて、ジョナサン・ゴールドスタインジョン・フランシス・デイリーらが脚本に参加。
この人たちは良く知らなかったが、調べてみると『くもりときどきミートボール2』という「傑作アニメーションの続編」の脚本家だそうで。
『1』は傑作だったけど『2』は記憶があまりないので、腕利きのスーパー脚本家!というわけではなさそう。


役者は新顔、MCUの常連、みんな最高だった(上から目線)。
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主役のトム・ホランドは、スタン・リーをして「スパイダーマンを演じるために生まれてきた男」と言わしめるハマりっぷり。
ミュージカル『ビリー・エリオット』で仕込まれた(パンフより本人談)屈指のアクション能力を生かして、可能な限りアクションシーンは本人が担当したとか。
史上最も若いスパイダーマンの、その初々しさ、青さを完璧に演じ切っているように思う。かわいかったー。
『東京喰種』の窪田くんもそうだったけど、20歳越えてなお少年の雰囲気を醸し出せる俳優さんってすごいし羨ましい。

マイケル・キートンは流石のマイケルキートン力。
「家族のためなら何でもするぜ」という、絶対的な悪ではなく相対的な悪を完璧に演じ切っていると思う。
家族の前では本当にナイスパパって感じなのに、仕事中の悪い顔は本当に憎むべきやつって感じ。
ロキ以来、ようやくMCUに魅力あるヴィランが出てきたなと思った。

ピーターのクラスメイト達もフレッシュでとても良かった。
ジェイコブ・バタロンは『アントマン』の3バカをギュッと1人の人間に凝縮したような感じ。要するに最高に楽しいサイドキック。
ローラ・ハリアーはすごくセクシーで高嶺の花って感じがすごいフェロモンとして出てたし、
ゼンデイヤは『ブレックファスト・クラブ』の不思議ちゃんを完コピしたようなキュートな変人がはまり役。
本人はミリオンセラーの歌手でありモデルというスーパーな人みたいだけど。
クイズ部の面々も少ししか出番ないわりにしっかりそれぞれ印象に残ったし、ここはジョン・ワッツ監督の人物描写への執念が出てた部分だと思う。

ロバート・ダウニー・Jrはアイアンマン歴10年だけあって、画面に映るだけで気分がアガるしアメコミ映画観てる!って気分になる。
主人公のピーター・パーカーに対するメンターであり擬似的な父親でもあるという立場。
自分(トニー・スターク)が父親とあまりいい関係を築けていなかったからかピーターに対してぎくしゃくし他態度を取りつつも、キチンと見守って父親役を果たそうとしていたのにはジンワリ来た。
初登場の傲岸不遜なアンチヒーローから10年。
この10年で、トニーも遅まきながら成長したんだな、と思ってしまう(上から)。

そして何より、ジョン・ファブローがマーベル映画に帰ってきてくれて本当に嬉しい!
『アイアンマン』シリーズでの活躍は言うまでもなく。
MCUの礎というべき映画監督であると同時に、最高にチャーミングなキャラクター、ハッピーの役者でもある。
本作ではピーター・パーカーの兄貴分として、トニー・スタークとの擬似家族的紐帯を形成する、けっこう重要な役回り。
出来のいい「弟(=ピーター)」にばかり目を向ける「父(=トニー)」に嫉妬しているようにも見えてかわいかった(小並)。

あらすじ

ベルリンでのアベンジャーズ同士の戦いに参加し、キャプテン・アメリカのシールドを奪ったことに興奮するスパイダーマンこと15歳の高校生ピーター・パーカーは、ニューヨークに戻ったあとも、トニー・スタークからもらった特製スーツを駆使し、放課後の部活のノリで街を救う活動にいそしんでいた。そんなニューヨークの街に、トニー・スタークに恨みを抱く謎の敵バルチャーが出現。ヒーローとして認めてもらい、アベンジャーズの仲間入りをしたいピーターは、トニーの忠告を無視してひとりで戦いに挑むのだが……。

スパイダーマン ホームカミング : 作品情報 - 映画.comより

どうでもいいけど、予告編で話の中身あらかた全部わかってしまうのはどうかと思った。
「あ、これ予告のあれだな」「ここ予告で観たな」と思ってるうちにラストに行ってしまったのはちょっぴり残念。
1か所だけ吃驚するところがあるけど、あそこもそのあとのタメがいまいちだったので勿体ない。
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恒例のポストクレジットのチョイ見せは2つ
1つ目は今後の『スパイダーマン』の伏線になりうる内容だったからマストで観るべきだけど、
2つ目は何て言うか、デッドプールのパクリ?的な内容で今後へのフックではないので、こっちはトイレを我慢してたら観ずに出て行ってもオッケーな気がする。

感想

観る前に結構強めに感じていた不安があって、予告編を見るたびにその不安が増してました。
その不安とは、「こんなにいろんな要素を詰め込んで尺が足りるのか?」というもの。
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今回の映画で消化しなきゃいけない要素はざっと挙げると、
青春映画としてのスパイダーマン
②「街のヒーロー」としての活躍
③「大いなる力には大いなる責任が伴う」という命題
アベンジャーズへの加入
⑤トニーとの擬似親子的関係を軸とした成長物語
こんなにある!

①~③はこれまでの歴代スパイダーマンでも提示された、スパイダーマンの骨子となる部分で、
④はMCU世界に参入する以上は無視できない要素だし、
⑤は『シビル・ウォー』からの流れと、今後のMCUの構想を見る限り必須↓。
マーベル社長『アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー』が一部キャラクターの「最終章」であることを認める | ORIVERcinema

どの要素もそれ1つで一本の映画を作るには十分だと思うんだけど、それを5つも2時間強のうちにまとめて片付けないといけない。
相当な交通整理力が必要になるし、下手な監督なら空中分解しかねないと思っていたんだけど、
全てオッケー!クリアしてます!及第点!

①はタイトルの由来でもあるホームカミングのパーティを到達点に、個性豊かなクイズ部の面々とのスクールライフをしっかり描いて楽々達成させてる。
『ブレックファスト・クラブ』的な、スクールカーストの垣根を越えた交流は楽しいし、だれもかれも特徴的ですごく好きになれる。
個人的にはゼンデイヤ演じるミシェルが一番好きで、メインストーリーにはほとんど絡まないけど何故かいつもピーターのそばにいる感じがとてもよかった。
こういう、一見どうでもいいことを掘り下げて描く人物造形は監督の前作の『コップ・カー』でも現れていて、この監督の十八番なんだと思う。
演出で一番得したキャラであり、終盤のあるセリフから、それが必然であったことも分かる。
事前の宣伝で前に出てた割に今回の出番は少ないけれど、今後のシリーズでは大いに活躍してくれそう。

②は過去のスパイダーマンでもおなじみなクイーンズの風景の中を飛び回る前半のシークエンスでばっちり示してくれるし、④とも関連する形でラストにスパイダーマンらしい結論を出してくれる。
あるシーンで、ピーターが地の利を生かして近道しつつ車を追跡するシーンは、シャーロックホームズっぽいなと思ったりもしました。
「あなたの親愛なる隣人」として、こういうシーンがあるとテンション上がりますね。
ただまあ、過去作ではよく見た「街の人に救われるシーン」があまりなかったのはちょっと残念。

③はベンおじさんの件がカットされた分(賢明な判断だと思います)、どこでコレ回収するのかなと思ってたけど、前回の『シビル・ウォー』でもう言ってた
本作の中では、ひょっとするとホームカミングデーを抜け出したあの疾走がこれを体現してるのかな、と思ったりするけど。

④はラストの見事な結論に膝を打った。
MCUという、アベンジャーズ至上な世界の中であれを言わせるというのは本当に意外ですごいことだし、少年が大人に向かってステップアップしたという実感をこれほど感じられる決断は他にない。
スパイダーマン的なテーマを換骨奪胎してMCUに上手く埋め込んだなという感じ。
いいラストでした。

⑤は関係性萌えの極致。
父親的な存在を失っているピーターと、父と確執を抱えたまま死別し、それをいまだに引きずっているトニーが師弟として、擬似的な家族としてぎこちなく付き合っていくという流れが、数少ないシーンの中でうまく描けていたように思う。
偉大な存在である「父」に認めてもらおうと背伸びして、地に足が着いていなかったピーターが、最後には「父」の予想を超える決断をして、しっかり地に足を着けて帰っていく
②や④のテーマと複合的に絡みながら、⑤にもしっかり回答を出したストーリーテリングは見事。
どうでもいいけど、メイおばさんにマリサ・トメイというRDJの元カノをキャスティングしたというメタな部分からも、この擬似家族感が裏打ちされて際立っていたような。


満点!じゃなくて及第点!なのは、アクションシーンが夜ばっかりでせっかくの戦闘がよく見えないとか、よくできてるにしてもちょっと演出が急ぎ足じゃないかとか(ホームカミングパーティで決断するの速すぎじゃねとか)、落ち着いてから考えるとまあまあ粗が見えるからなんだけど。
それでも観ている時は最高に楽しかったし、これだけの負荷がかかる中で話がとっちらかってなかったのは普通にすごいことでしょう。
MCUの作品を手掛ける監督は誰しもがこの「交通整理」を求められるんだけど、ジョン・ワッツ監督もほかの偉大な監督たち同様、そのチャレンジに成功してみせたということだと思う。
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↑本編になかったシーン

まとめ

後から考えてみると、大傑作!というわけではないけれど、それでも観ている間は最高に楽しいし、滅茶苦茶上がったハードルを飛び越えたのは間違いない一作です。
劇場に人がいっぱいに入ってて、興奮を共有できる今こそ観に行くべき映画だと思います。

【映画感想】ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ  プロジェクトXの影の側に立った作品

渋谷シネパレスで鑑賞してきました。
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。

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公開からすでに2週間たっているにもかかわらず、劇場はほぼ満席。
木曜がメンズデーというのも一つの理由でしょうが、それ以上にこの盛況は映画の評判のよさにあるでしょう。
そして口コミにたがわず、非常に面白かったです。


単純に、「マクドナルド創業者はマクドナルドさんではない」というトリビアを知って「へぇそうなんだ」と思うだけにとどまらない映画でした。
ジョン・リー・ハンコックらしい、と言うべきでしょうか、「旧き良きアメリカ」への郷愁と、大量生産大量消費社会への忌避感が押しつけがましくなく描かれていて、今の時代を生きる私たちが非常に共感できるつくりになっています。
この映画は、マイケル・キートンが演じるマクドナルドの創業者レイ・クロックのやり方、価値観が良しとされてきた時代への決別を告げる一本と言えるのではないでしょうか。


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基本情報

監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ロバート・D・シーゲル
出演:マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、リンダ・カーデリーニ

プロデューサー陣に『アベンジャーズホークアイ役ののジェレミー・レナ―がいてびっくりしました。


それはさておき、監督は『ウォルト・ディズニーの約束』のジョン・リー・ハンコック
脚本は『レスラー』のロバート・D・シーゲル。
IMDbで調べる限り、この作品で初めて組むコンビかな?

監督は他にも『オールド・ルーキー』とか『しあわせの隠し場所』とか、実話を基にしたヒューマンドラマを多く手掛けている人。
今回はちょっと毛色が違って全編にアイロニカルな空気が漂うけれど、変わらずいいドキュメンタリー風ドラマを作る人ですね。


キャストの方だと、マイケル・キートンマイケル・キートン力全開。
前半のとにかくポジティブなアメリカ人と、後半の冷酷なヴィラン感がどちらも最高にハマっていて流石でした。
今回のスパイダーマンでも、家族を思いやる父親とスタークへの復讐を誓うヴィランの二面性を発揮するキャラですが、マイケルキートンなら安心して待ち望むことが出来ますね!

あとはグラントリノでイタリア系の床屋を演じていたジョン・キャロル・リンチが今作でも「旧き良きアメリカ」側の人間として好演していて良かったとか、
リンダ・カーデリーニはそういえば『アベンジャーズ』でホークアイの奥さんだった人だとか、
その辺が個人的にいい意味で気になったところですかね。


あらすじ

1954年、シェイクミキサーのセールスマン、レイ・クロックに8台もの注文が飛び込む。注文先はマックとディックのマクドナルド兄弟が経営するカリフォルニア州南部にあるバーガーショップ「マクドナルド」だった。合理的なサービス、コスト削減、高品質という、店のコンセプトに勝機を見出したクロックは兄弟を説得し、「マクドナルド」のフランチャイズ化を展開する。しかし、利益を追求するクロックと兄弟の関係は次第に悪化し、クロックと兄弟は全面対決へと発展してしまう。

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史実を基にした話なので、「意外な真実!」とか「衝撃の展開!」みたいな話ではなく。
あらすじを読めばそれがそのままネタバレです。
ただし、その既知の話を面白く見せる演技や演出が素晴らしいので、話の筋を知るのみにとどまらず劇場で観てほしい、という感じの作品。


感想

冒頭の上手い説明描写

始まってから10分弱は、マイケル・キートン演じるレイ・クロックがシェイクミキサーのセールスマンをしていたころ、仕事の取引でマクドナルド兄弟に運命的な出会いをするまでのシークエンス。
ここがとても上手いなと思ったのですが、この10分で「クロックの人物と窮状」、「マクドナルド兄弟の革新性を示す伏線」を過不足なく描写されています。

開幕のシーン、クロックが話しかけている相手の視点で、クロックがスラスラとセールスの口上を述べるところ。
これで観客はすぐにクロックが口の上手さを生業にしている男だと分かりますし、同時にあまり成功していないことも汲むことが出来ます。

そしてクロックの出先の外食店が、いかにガラが悪く、サービスが行き届いておらず非効率か、ということも並行して描写しており、これによって後に出てくるマクドナルドという「目新しい」店の画期的なすごさが分かりやすく伝わるようになっています。
私たちはマクドナルドがもうある世界に生きていますから、そのシステムの革新性というのはなかなか実感できません。
そこで冒頭のシーン、他店の体たらくを何気なく入れ込んだシーンで、この後出てくるマクドナルド兄弟がやってのけたシステム革命のすごさが私たちにも感じ取れるようになっているんですね。

よく、「いい映画は10分見ればわかる」と言う人がいて、私はあまりそれ自体には与しないのですが、この映画に関しては冒頭10分の手際の良さから映画の面白さを確信出来ました

前半は牧歌的なサクセスストーリー

映画の前半は二つのパートに分かれていて、一つはマクドナルド兄弟のたゆまぬK.U.F.U.(🄫RHYMESTER)の話で、もう一つがそれをクロックがフランチャイズ展開で受け継ぐ話。

これらのパートはとても牧歌的というか、古くから良しとされている「知恵と努力」によってマクドナルド兄弟、クロックが成功をつかむというもの。
クロックがフランチャイズを展開するパートでは、恐慌や戦争によって不安定な職に就いている若者を救済するような形で店を持たせていたり、経営に真剣でない投資家を追放するなど、クロックの奮闘が美談的なムードで語られていきます。
私たち観客が盲目的に信じられる「旧き良き」サクセスストーリーが展開されるわけです。

その背景で流れる音楽は不穏な旋律をはらんでいたり、クロックの家では影が落ちた絵作りになっていたり、今後の波乱や決裂を予感させるものになっているのですが。

後半は冷酷なサクセスストーリー

そして後半。ディテールは伏せますが、マクドナルド兄弟とクロックの溝が修復不可能になる展開。
クロックはひたすら冷徹に、そしてマクドナルド兄弟はひたすら追い込まれる惨めな立場として描かれます。
ここでもまだクロックのサクセスストーリーは続いています。

しかし、そこでのクロックはひたすらマイケルキートン節の悪ーい表情で、冷酷に物事を進めていくのです。
この場面、描き方によってはまだプロジェクトX的というか、いい話に持っていくこともできると思うのですが、後半のクロックはひたすら悪の帝王的な描かれ方になっていきます。

マクドナルド兄弟の理念であった「マクドナルドは家族である」という「美徳」が、「より稼ぐためのマクドナルド」という「悪徳」に乗っ取られていく様を本作では殊更に取り上げていくのです。

この話、一昔前の大量生産大量消費が是とされていた時代であれば、ただただ良いサクセスストーリーとして全編を作ることもできたと思います。
それを、本作では「旧き良きアメリカの喪失」という文脈で解釈し、『グラン・トリノ』の「モン族いない版」として構成しているのです。
今の時代になんとなく共有されている、「あの頃」への懐古、そして猛烈に働くだけが良いことではないという回帰を、強く意識した作品であると思いました。

終わりに

マクドナルド兄弟がクロックに、庇を貸して母屋を取られた物語として、マクドナルド創業の逸話を再解釈した本作。
旧いアメリカ的なものが、名前は変わらずともいつしか全く違う不快なものに変容していた、という、おそらく現代のアメリカ人が内心感じているであろう違和感を強く意識させられた一作でした。
あまり上手く魅力を伝えきれませんでしたが、おススメの映画です。


↓クロックさんの自伝。ベストセラーらしいです。

↓作中でクロックが聴いていたレコードの元本。
凡百の自己啓発本より役立ちそう。

これ↓を観ると映画の背景がより多角的に分かって面白さが増します。
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