時々往々にして

すきなことをすきなように書きます

【映画感想】ベイビー・ドライバー 思ってたのと違うけど素晴らしい一作

エドガー・ライト最新作、『ベイビー・ドライバー』、観てきました。
やっぱり間違いない監督ですね、エドガー・ライト
すこし思ってたのとは違いましたけど、いい映画を観た、という実感のある映画でした。
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楽しみにしていたエドガー・ライト作品、周りのお客さんもそうだったようで、満席で笑いのこぼれるいい雰囲気でした。

ところで、今作は上映館が少なくて都内だとT・JOY系列だけっぽいので、いつもと違う劇場に行ったんですけど。
劇場の系列変えると流れる予告編も変わってきて、珍しく楽しい予告編タイムでしたよ。
ジャッキーチェンの新しいやつは思ってたよりどうでもいい感じでしたけど、
イーストウッドの息子が出る『スクランブル』はけっこう楽しみになりました。
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9月22日日本公開ですが、アメリカでは10月13日に公開だそうで、本邦が最速なんでしょうか。
カッコいい車がガンガン出てきてアガる、というのは正しくカーアクションで素晴らしいですよね。
ワイスピの制作陣みたいなので安心感もあるし、ぜひ見たい一本です。

閑話休題
私がエドガー・ライト作品に初めて触れたのは2008年公開の『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』で、愛のあるパロディとしての秀逸さ、真顔で笑わせてくるコメディセンス、それでいて真っ当に面白い警察アクションとしての魅力で、オールタイムベスト級に好きな一本になったんですけど。
そのあと、『スコットピルグリム vs 世界』『ワールズエンド』を流れで観つつ、『ショーン・オブ・ザ・デッド』を後から観直したりして、すっかりエドガー・ライト監督ファンになったわけですが。

今作、相変わらずコメディとしても秀逸ですし、「エドガー・ライトの好きなモノ詰め合わせ」という意味ではこれまでの作品と変わらない部分もあるのですが、鑑賞後はやっぱり「コレジャナイ感」を感じずにはいられませんでした。
ただ、そのコレジャナイ感を感じつつも、さわやかな後味も同時に感じていて。
これまでとは違う、キャリアを積んで洗練されたエドガー・ライト監督の成長を感じる一本でした(偉そう)。
コレデイイ。


今作、あのシーンが楽しかった、ここが最高!という感想も沢山あるんですけど。
それよりも、なぜ「思ってたのと違う」と感じたのかを自分なりに書いていきたいと思います。

あらすじ

天才的なドラインビングテクニックで犯罪者の逃走を手助けする「逃がし屋」をしているベイビーは、子どもの頃の事故の後遺症で耳鳴りに悩まされているが、音楽によって外界から遮断さえることで耳鳴りが消え、驚くべき運転能力を発揮することができる。そのため、こだわりのプレイリストが揃ったiPodが仕事の必需品だった。ある日、運命の女性デボラと出会ったベイビーは、逃がし屋から足を洗うことを決めるが、ベイビーの才能を惜しむ犯罪組織のボスに脅され、無謀な強盗に手を貸すことになる。

ベイビー・ドライバー : 作品情報 - 映画.comより
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感想

これまでと違う構成

エドガー・ライト作品って、ラーメンズのコントに似てると思ってる。
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ゲラゲラ笑わせてくれるんだけど、その中でスッと胸を突く言葉とか、胸を熱くさせる展開を忍ばせてくる。
なんというか、ズルい感じなのだ。
こっちはパロディばかりのコメディだと思って観ているのに、急にある種のジャンルの本格的な「真面目な」映画になっていく。
スリー・フレーバー・コルネット三部作のサイモン・ペッグの、イケメンにも三枚目にも見えるルックスもそれをうまく後押ししていた。
(それだけに、スコット・ピルグリムはあんまり好きじゃない…)
前半と後半で別種の映画を観ているような気分にさせられるのが、エドガー・ライト作品だと思っていた。

ただ、今作はそれとは違って、最初から最後までいわば「真面目な」映画として作られている。
コメディとしてところどころ笑える個所も用意されているものの、それはじめっとしたパロディの含み笑いではなく、爽やかな、からっとした笑いを呼ぶものだ。

ストーリーの本筋はとても真っ当なクライムアクション、カーアクション、青春映画で、それをメタ的に見せて笑わせる要素はない。
最初から非常にウェルメイドな、ベイビーという青年の物語になっている。

いわば「俺たちのエドガー・ライト」、既知の作品に対するオタク的な楽しみをパロディという形で共有していたエドガー・ライトが、ついにオタクの壁を越えて「ハリウッドのエドガー・ライト」に進化したという感じ。
新海誠が「君の名は。」で、急にスター監督に化けたのとどこか似てる。

過去に↓みたいなPVを撮っていたこともあるし、今作がエドガー・ライトがやりたい映画であったことは間違いなく、ようやくこれを2時間の尺で真面目に撮れるまで、エドガー・ライトが評価と実力を獲得したということなのかな。
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これまでと違う人物造形

この映画、「ご都合主義」という非難もできるかもしれない。
ややネタバレになるけど、
「どうしてドクはベイビーたちに協力して逃がしたの?」
というところで、人によっては冷めてしまうのかもしれない。

でも、中盤にドクが甥っ子の世話をしているシーンや、少年時代のベイビーが彼にやらかした「犯罪」に対して彼がどう振舞ったか、というところを考えると、その疑問は氷解するんじゃないか。
ドクは基本的には冷徹で完璧主義者だけれど、こと人情が絡むと「優しいおじさん」と化してしまうことは、実は劇中で結構語られていたりするのだ。

この例でも分かるように、エドガー・ライト監督は今回、徹底して人物を多面的に描く作劇をしている。
ジェイミー・フォックス演じるバッツが、狂気あふれる犯罪者として描かれつつも、実は後にジョーを殺さずにおくような、正気の判断ができる冷静な人物であることをところどころで示唆していたのもそれだ。

これまでのエドガー・ライト作品において、「元ネタ」のジャンル映画から型通りのキャラクターを切り取って各登場人物に当て込んだのとは対照的な人物描写を、今回の『ベイビー・ドライバー』では行っている。
ホット・ファズ』でサイモンペッグが演じた「どこまでもくそ真面目な警官」のような、ある種の誇張でキャラクターを浮かび上がらせていたのとは違う、より独立した劇映画としての造形が行われている。

ここでも、やはり先述した「俺たちのエドガー・ライト」からの脱却が感じられます。

そしてとにかく楽しい2時間

まあ何にせよ、この映画が徹頭徹尾わいわい楽しいことに異論はないと思います。
流れ続ける音楽、その音楽に合わせてスクリーンで登場人物たちは踊り、自然音が楽器のようにリズムを刻む。
自然と体が揺れて、物語に入り込んでいく感じは、映画館で映画を観る喜びを全身で感じさせてくれます。
冒頭の強盗後の珈琲を買いに行くシーン、あれだけ計算された画面をどうやって作ったのか驚きです。

そして、ここはエドガー・ライト印と言えるでしょう、数多くの映画からのオマージュの楽しみ
↓に記されてる5本の他にも、
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例えば立体駐車場の「車相撲」は『狼の死刑宣告』っぽいし、
車で人を殴るような轢殺アクションは『ジョン・ウィック』っぽい。
そのへんが個人的には印象的でした。
控えめに言って場面の半分はカーアクションですが、そのカーアクション自体を飽きさせない多彩なアクションのレパートリーは流石の一言。

結末の少しほろ苦い感じも、ベイビーがこれまで犯してしまった罪に対して一応の因果応報が与えられたという意味で納得の展開。
ところで、私は最後のシーンはベイビーが観た白昼夢だと思います。報われすぎ!

そんな感じでとってもいい映画を観たな、という充足感を持って映画館を後に出来る映画です。
とにかくグルーブ感のある映画なので、ぜひ劇場で、見ず知らずの人たちとの一体感を楽しむといいのではないでしょうか。

【映画感想・ネタバレ】ウィッチ 時代も宗教も超えて怖いものは怖い

『ウィッチ』、新宿武蔵野館で遅まきながら観てきました。
上映は来週いっぱいまでなので観てない人はお早めに。
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『ウィッチ』、割とおすすめだけど同時に人に薦めて観させたら、こっちが怒られてしまうような作品でもあって。
なぜならこの映画滅茶苦茶怖くて、鑑賞後の夜道での精神状態に間違いなく支障が出るから。

ホラーだっていうのは知ってたけれど、
「所詮昔のイギリスの話だからたいして怖くない(自分と時間的物理的に距離があるから)」
「アニヤ・テイラー=ジョイちゃんかわいい(かわいい)」
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という軽い気持ちで観に行ったんだけど…ぜんぜんビビったし、イヤーな気持ち(いい意味で)になる映画でしたよ。

「旧来的な家庭から解放される女性性の話」とか、
「ミニマライズされた環境での魔女狩り思考実験」とか、
知ったようなことを書こうと思えば書けるんだろうけど、それよりも
森怖い」「夜怖い」「魔女怖い」「その音やめて
っていう直感的な感想が先に立つ映画でした。
当時の宗教や社会のことなんか一つも知らなくても普通に怖い、夏にぴったりのホラーです。

基本情報

監督:ロバート・エガース
脚本:ロバート・エガース
出演:アニヤ・テイラー=ジョイ、ラルフ・アイネソン、ケイト・ディッキーら
公式HP:映画『ウィッチ』 オフィシャルサイト

監督・脚本のロバート・エガースはこれが長編初のメガホンで、しかもサンダンス映画祭で監督賞を獲得しちゃった人。
サンダンスの映画祭は「世界最大のインデペンデント映画祭」らしく、タランティーノとか、『SAW』のジェームズ・ワンとか、『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルがここから有名になっていったそう(この人たちはグランプリだけど)。

要するにエガースさんは映画監督の登竜門でタイトルを獲得した監督で、この後、古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』のリメイク監督という大役を任されることになります。
そっちでもアニヤ・テイラー=ジョイが出演するっぽいけど、今作の怖さの質の良さを考えると、またこのコンビで、というのは非常に合点がいく。

役者陣。
子役が子役っぽくなくて原寸大の「子ども」が画面に映っている感じが良かった。
是枝裕和監督に通じる子役演出のうまさがエガース監督にもあるのかな。
父親役のラルフ・アイネソンはハリポタに出てたらしいけどちょっと記憶にない…。GotGにもちょい役で出てたんだって。
けっこう味のある役者さんだなというか、ヘタレだけど父親らしくあろうとする男、という役にぴったりの人だった。
ケイト・ディッキーが演じる他人任せで受動的な母親と併せて、あまりいい家庭じゃなさそうな夫婦にげんなりした(いい意味で)。

主役のアニヤ・テイラー=ジョイ、美しかった…。
あの年頃の女子にありがちな、子供っぽい無邪気な部分と少し大人な狡くて悪い部分が同居している感じを100倍カリカチュアライズした、イヤで魅力的な演技をしていたと思う。
ラストの邪悪かつ心からの笑顔も見事。役者を活かす監督の演出力もすごいし、この子の演技力も恐ろしい。

あらすじ

「魔女」をテーマに、赤子をさらわれた家族が次第に狂気の淵へと転落していく姿を描き、第31回サンダンス映画祭で監督賞に輝いたファンタジーホラー。
1630年、ニューイングランド。ウィリアムとキャサリンの夫婦は、敬けんなキリスト教生活を送るために5人の子どもたちと森の近くにある荒地へとやって来た。しかし、赤ん坊のサムが何者かに連れ去られ、行方不明となってしまう。家族が悲しみに沈む中、父ウィリアムは、娘のトマシンが魔女ではないかとの疑いを抱き、疑心暗鬼となった家族は、狂気の淵へと転がり落ちていく。

ウィッチ : 作品情報 - 映画.comより
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この映画もあらすじが≒ネタバレのタイプで、プロットの意外性というより、それをどうスクリーンに投影するか?の凄みで勝負するタイプの映画。
あらすじと予告の5億倍怖いので、事前にタカをくくって観に行くと心的外傷がマッハになる映画です。

感想

ここから大幅にネタバレ含みます。

そんなことより怖すぎるぞこの映画

ラストシーンはルイス・リカルド・ファレロの「サバトに赴く魔女たち」の絵にそっくりな構図だ…とか、詳しい人はいくらでも考察できる映画だと思います。
映画の終わりで、かなり実際の出来事からインスピレーションを得たというテロップが出ていたので、オマージュてんこ盛りなんでしょう。

ただ、そういうのをあれこれ考える知識がなくとも、目の前で恐ろしいことが起きている!という純粋な恐怖が、誰しもファーストインプレッションとして残る映画だと思いますコレ。

えぐいゴア描写とか、ビックリさせる展開はないんですが、とにかくすべてが目を背けたくなる不吉さ
サムが死の直前に幻視した「神の子」は絶対に悪魔の擬態ですよね…。
子どもが満面の笑みを浮かべているだけなのに怖い、不吉!って思うことあるんですね。

あと、ちょっと『ファイナル・デスティネーション』っぽい死に方する(そこはちょっと笑っちゃったけど)両親の狂った感じをはじめ、全部が悪い方向に転がっていってしまったが故に家族に訪れる不幸、という感じは『葛城事件』と似た後味の悪さでそこも最悪(褒めてる)でしたね。

そして、とにかく使われている「」が恐ろしい。
赤ん坊のサムが連れ去られた後の「何か」を杵で潰すくちゅ、くちゅという音。
森のどこからともなく聞こえてくる魔女のささやきと叫び。
要所要所で効果的に挟まれるバイオリンの一番イヤな使い方の音。

森と暗闇というただでさえびくびくさせられる舞台装置の中で、ご丁寧に音の演出で恐怖を説明し増幅させる手腕は見事としか言えないです。
目をふさいでも、情報を遮断できないのはちょっと容赦なさすぎだと思います。
ときどき怖すぎて劇場の床の常夜灯へと目をそらしていたのですが、それでもなお怖かった…。

鑑賞後にあまり多くを語る気力がなくなる映画というか、私にとっては魂が抜けて、ただただ怖いという感想しか残らない感じでした。
もちろん、ホラーですからその感情を楽しむために行ったし、いい映画です。
ただ、夜に観るべきではなかった…。
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終わりに

いろんな切り口のある、非常に多層的な映画です。
私のように、キリスト教の魔女についてなんら知識を持たない人でも純粋で上質なホラーとしてこわ楽しめますし、
そういう知識が豊富な方ならたぶん別の楽しみ方もあるでしょう。
知識人と一緒に行って、散々怖がったあとに喫茶店でテーマについて解説してもらうのが一番この映画を楽しめそう。

夏の夜にぴったりなホラーでした。音響の妙を含めて、ぜひ今、劇場で鑑賞するのが〇でしょう。

【映画感想】スパイダーマン:ホームカミング 粗はあるけどとにかく楽しい!お帰りスパイディ!




IMAX3Dで観てきました、『スパイダーマン ホームカミング』!
楽しい!笑える!面白い!
ひたすら楽しい2時間半でした!絶対にまた観に行きます。

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朝一番の回に行ったのですが、人の数に圧倒されました。
10分前に行ったのに定刻に間に合わずCMの途中から入る羽目になったくらい。
私の最寄りの某シネコンでこんなに人がいるの初めて見ました。

そして、私の行ったところだけでしょうか、いつもより予告編の時間が長い…。
体感で15分くらいは予告編を見せられた気がします。
ブレードランナー2046』の予告を初めて観れたので文句はないですが。
映画館で予告を観ると、興味なかった映画でも観に行きたくなりますね。
今年はそれで『東京喰種』という当たりを引けたのでなかなかバカにしたもんじゃないです、予告編。

本編も素晴らしかったのですが、一番感情が込み上げてきたのは、
いつものIMAXのカウントダウンがスパイダーマン仕様になっていたところ。
『シビル・ウォー』以来、本当に帰ってくるのを楽しみに待っていたので此処で一気に気持ちが昂ぶりましたね。

本編はもう良さ、良さ、良さ、という感じで全編通して幸せになれる作りで、待っててよかったなーって感じ。
「大いなる力には大いなる責任が伴う」「貴方の親愛なる友人」、あるいはヴィラン側への眼差しという、いつものスパイダーマンの要素を忘れずに取り込みつつ、
アイアンマン=トニー・スタークとスパイダーマン=ピーター・パーカーの擬似家族の要素とアベンジャーズの要素を新たに付け加えていて、
フレッシュかつ定番の楽しさを感じられる一本です。

基本情報

監督:ジョン・ワッツ
脚本:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー、クリストファー・フォード、クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
出演:トム・ホランドマイケル・キートンジョン・ファヴローゼンデイヤドナルド・グローヴァー、タイン・デイリー、マリサ・トメイロバート・ダウニー・Jr

監督は今作が長編映画3作目という新鋭、ジョン・ワッツ
脚本に参加しているクリストファー・フォードとは3作すべてでタッグを組んでいる。
このコンビが前回手掛けた『コップ・カー』については弊ブログのこちらの記事を参照していただけるといいかも。
tokidokioh.hatenablog.com
今回のスパイダーマンにも通じる、この監督の作品に滲むこだわりについて書いてます。


加えて、ジョナサン・ゴールドスタインジョン・フランシス・デイリーらが脚本に参加。
この人たちは良く知らなかったが、調べてみると『くもりときどきミートボール2』という「傑作アニメーションの続編」の脚本家だそうで。
『1』は傑作だったけど『2』は記憶があまりないので、腕利きのスーパー脚本家!というわけではなさそう。


役者は新顔、MCUの常連、みんな最高だった(上から目線)。
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主役のトム・ホランドは、スタン・リーをして「スパイダーマンを演じるために生まれてきた男」と言わしめるハマりっぷり。
ミュージカル『ビリー・エリオット』で仕込まれた(パンフより本人談)屈指のアクション能力を生かして、可能な限りアクションシーンは本人が担当したとか。
史上最も若いスパイダーマンの、その初々しさ、青さを完璧に演じ切っているように思う。かわいかったー。
『東京喰種』の窪田くんもそうだったけど、20歳越えてなお少年の雰囲気を醸し出せる俳優さんってすごいし羨ましい。

マイケル・キートンは流石のマイケルキートン力。
「家族のためなら何でもするぜ」という、絶対的な悪ではなく相対的な悪を完璧に演じ切っていると思う。
家族の前では本当にナイスパパって感じなのに、仕事中の悪い顔は本当に憎むべきやつって感じ。
ロキ以来、ようやくMCUに魅力あるヴィランが出てきたなと思った。

ピーターのクラスメイト達もフレッシュでとても良かった。
ジェイコブ・バタロンは『アントマン』の3バカをギュッと1人の人間に凝縮したような感じ。要するに最高に楽しいサイドキック。
ローラ・ハリアーはすごくセクシーで高嶺の花って感じがすごいフェロモンとして出てたし、
ゼンデイヤは『ブレックファスト・クラブ』の不思議ちゃんを完コピしたようなキュートな変人がはまり役。
本人はミリオンセラーの歌手でありモデルというスーパーな人みたいだけど。
クイズ部の面々も少ししか出番ないわりにしっかりそれぞれ印象に残ったし、ここはジョン・ワッツ監督の人物描写への執念が出てた部分だと思う。

ロバート・ダウニー・Jrはアイアンマン歴10年だけあって、画面に映るだけで気分がアガるしアメコミ映画観てる!って気分になる。
主人公のピーター・パーカーに対するメンターであり擬似的な父親でもあるという立場。
自分(トニー・スターク)が父親とあまりいい関係を築けていなかったからかピーターに対してぎくしゃくし他態度を取りつつも、キチンと見守って父親役を果たそうとしていたのにはジンワリ来た。
初登場の傲岸不遜なアンチヒーローから10年。
この10年で、トニーも遅まきながら成長したんだな、と思ってしまう(上から)。

そして何より、ジョン・ファブローがマーベル映画に帰ってきてくれて本当に嬉しい!
『アイアンマン』シリーズでの活躍は言うまでもなく。
MCUの礎というべき映画監督であると同時に、最高にチャーミングなキャラクター、ハッピーの役者でもある。
本作ではピーター・パーカーの兄貴分として、トニー・スタークとの擬似家族的紐帯を形成する、けっこう重要な役回り。
出来のいい「弟(=ピーター)」にばかり目を向ける「父(=トニー)」に嫉妬しているようにも見えてかわいかった(小並)。

あらすじ

ベルリンでのアベンジャーズ同士の戦いに参加し、キャプテン・アメリカのシールドを奪ったことに興奮するスパイダーマンこと15歳の高校生ピーター・パーカーは、ニューヨークに戻ったあとも、トニー・スタークからもらった特製スーツを駆使し、放課後の部活のノリで街を救う活動にいそしんでいた。そんなニューヨークの街に、トニー・スタークに恨みを抱く謎の敵バルチャーが出現。ヒーローとして認めてもらい、アベンジャーズの仲間入りをしたいピーターは、トニーの忠告を無視してひとりで戦いに挑むのだが……。

スパイダーマン ホームカミング : 作品情報 - 映画.comより

どうでもいいけど、予告編で話の中身あらかた全部わかってしまうのはどうかと思った。
「あ、これ予告のあれだな」「ここ予告で観たな」と思ってるうちにラストに行ってしまったのはちょっぴり残念。
1か所だけ吃驚するところがあるけど、あそこもそのあとのタメがいまいちだったので勿体ない。
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恒例のポストクレジットのチョイ見せは2つ
1つ目は今後の『スパイダーマン』の伏線になりうる内容だったからマストで観るべきだけど、
2つ目は何て言うか、デッドプールのパクリ?的な内容で今後へのフックではないので、こっちはトイレを我慢してたら観ずに出て行ってもオッケーな気がする。

感想

観る前に結構強めに感じていた不安があって、予告編を見るたびにその不安が増してました。
その不安とは、「こんなにいろんな要素を詰め込んで尺が足りるのか?」というもの。
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今回の映画で消化しなきゃいけない要素はざっと挙げると、
青春映画としてのスパイダーマン
②「街のヒーロー」としての活躍
③「大いなる力には大いなる責任が伴う」という命題
アベンジャーズへの加入
⑤トニーとの擬似親子的関係を軸とした成長物語
こんなにある!

①~③はこれまでの歴代スパイダーマンでも提示された、スパイダーマンの骨子となる部分で、
④はMCU世界に参入する以上は無視できない要素だし、
⑤は『シビル・ウォー』からの流れと、今後のMCUの構想を見る限り必須↓。
マーベル社長『アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー』が一部キャラクターの「最終章」であることを認める | ORIVERcinema

どの要素もそれ1つで一本の映画を作るには十分だと思うんだけど、それを5つも2時間強のうちにまとめて片付けないといけない。
相当な交通整理力が必要になるし、下手な監督なら空中分解しかねないと思っていたんだけど、
全てオッケー!クリアしてます!及第点!

①はタイトルの由来でもあるホームカミングのパーティを到達点に、個性豊かなクイズ部の面々とのスクールライフをしっかり描いて楽々達成させてる。
『ブレックファスト・クラブ』的な、スクールカーストの垣根を越えた交流は楽しいし、だれもかれも特徴的ですごく好きになれる。
個人的にはゼンデイヤ演じるミシェルが一番好きで、メインストーリーにはほとんど絡まないけど何故かいつもピーターのそばにいる感じがとてもよかった。
こういう、一見どうでもいいことを掘り下げて描く人物造形は監督の前作の『コップ・カー』でも現れていて、この監督の十八番なんだと思う。
演出で一番得したキャラであり、終盤のあるセリフから、それが必然であったことも分かる。
事前の宣伝で前に出てた割に今回の出番は少ないけれど、今後のシリーズでは大いに活躍してくれそう。

②は過去のスパイダーマンでもおなじみなクイーンズの風景の中を飛び回る前半のシークエンスでばっちり示してくれるし、④とも関連する形でラストにスパイダーマンらしい結論を出してくれる。
あるシーンで、ピーターが地の利を生かして近道しつつ車を追跡するシーンは、シャーロックホームズっぽいなと思ったりもしました。
「あなたの親愛なる隣人」として、こういうシーンがあるとテンション上がりますね。
ただまあ、過去作ではよく見た「街の人に救われるシーン」があまりなかったのはちょっと残念。

③はベンおじさんの件がカットされた分(賢明な判断だと思います)、どこでコレ回収するのかなと思ってたけど、前回の『シビル・ウォー』でもう言ってた
本作の中では、ひょっとするとホームカミングデーを抜け出したあの疾走がこれを体現してるのかな、と思ったりするけど。

④はラストの見事な結論に膝を打った。
MCUという、アベンジャーズ至上な世界の中であれを言わせるというのは本当に意外ですごいことだし、少年が大人に向かってステップアップしたという実感をこれほど感じられる決断は他にない。
スパイダーマン的なテーマを換骨奪胎してMCUに上手く埋め込んだなという感じ。
いいラストでした。

⑤は関係性萌えの極致。
父親的な存在を失っているピーターと、父と確執を抱えたまま死別し、それをいまだに引きずっているトニーが師弟として、擬似的な家族としてぎこちなく付き合っていくという流れが、数少ないシーンの中でうまく描けていたように思う。
偉大な存在である「父」に認めてもらおうと背伸びして、地に足が着いていなかったピーターが、最後には「父」の予想を超える決断をして、しっかり地に足を着けて帰っていく
②や④のテーマと複合的に絡みながら、⑤にもしっかり回答を出したストーリーテリングは見事。
どうでもいいけど、メイおばさんにマリサ・トメイというRDJの元カノをキャスティングしたというメタな部分からも、この擬似家族感が裏打ちされて際立っていたような。


満点!じゃなくて及第点!なのは、アクションシーンが夜ばっかりでせっかくの戦闘がよく見えないとか、よくできてるにしてもちょっと演出が急ぎ足じゃないかとか(ホームカミングパーティで決断するの速すぎじゃねとか)、落ち着いてから考えるとまあまあ粗が見えるからなんだけど。
それでも観ている時は最高に楽しかったし、これだけの負荷がかかる中で話がとっちらかってなかったのは普通にすごいことでしょう。
MCUの作品を手掛ける監督は誰しもがこの「交通整理」を求められるんだけど、ジョン・ワッツ監督もほかの偉大な監督たち同様、そのチャレンジに成功してみせたということだと思う。
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↑本編になかったシーン

まとめ

後から考えてみると、大傑作!というわけではないけれど、それでも観ている間は最高に楽しいし、滅茶苦茶上がったハードルを飛び越えたのは間違いない一作です。
劇場に人がいっぱいに入ってて、興奮を共有できる今こそ観に行くべき映画だと思います。